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日本酒の秘密

日本酒はその名の通り日本の酒ですが、世界の酒とはどう違うのでしょう。その特徴の一つとして米麹(麹菌)を用いた製造法があげられます。日本酒の起源は定かではありませんが、713年の「播磨国風土記」に「神社の神様に供えた米飯が、古くなってカビが生えたので、それで酒を醸した」と記されていることから、この頃すでに米麹を用いた日本酒が造られていたとされています。また、糖化と発酵が同時に行われる並行複発酵にて造られる醸造方法も特徴です。
※一般的に言われる日本酒とは、定義上では「清酒」とされています。

その一 製造の秘密(日本酒の製造方法) DOWNUP

日本酒(清酒)の製造工程は複雑なので、できるだけ簡単に説明いたします。

蒸米・製麹
まず、玄米を精米します。この精米歩合によって製品の特徴が変わるのでとても重要な作業です。精米するのは、玄米の胚芽や外層部に微生物の栄養源となる成分が多く含まれるため、麹菌や酵母が過度の生育状態となり、良質の酒ができないためです。

そして洗米・浸漬した米を蒸します。蒸した米に、種麹(微生物を培養したもの)を接種し生育させます。これが麹と呼ばれるもので、この作業を製麹(せいきく)といいます。 米を蒸すのはデンプンのα化を行い麹菌の酵素作用を受け易くすることと、水分調整、付着している雑菌の殺菌を行うためです。

酒母
出来上がった麹を用いて酒母(しゅぼ)を作ります。酒母とは「もと」とも呼ばれる予備発酵で、伝統的な生(き)もと(現在ではほとんど作られていない)や、それを改良した山廃(やまはい)もと、さらに現在主流の速醸(そくじょう)もと等の製法がある。また、酒母を作らないで本発酵を行う酵母仕込という方法もある。
※「もと」は漢字(西元)なのですがフォントが無いためひらがなで書いています。

速醸もとでは、麹と水を混合しそこに乳酸と酵母を添加します。そして蒸米を加えて発酵させ、約2週間で出来上がります。山廃もとでは乳酸を用いず、自然発生する硝酸還元菌や乳酸菌が生育・死滅後に酵母を添加します。この場合約4週間ほどかかります。

仕込
今度は出来上がった酒母をベースに本発酵を行います。仕込は蒸米や麹、水を3回(4日)に分けて徐々に加えながら発酵させる、三段仕込と呼ばれる方法で行います。また、この3回を順番に初添、仲添、留添と呼びます。

まず初日の初添は、酒母に麹、水を加えそして蒸米を添加し発酵させます。翌日は踊りといい、酵母の増殖をはかるため仕込を休みます。そして3日目の仲添は、仕込中のタンクに麹と水、蒸米を添加し発酵させます。さらに翌日の留添も同様に麹と水、蒸米を添加します。ここまで行ったものをさらに20〜25日間ほど発酵・熟成させます。これがもろみと呼ばれるものです。また、吟醸酒や本醸造酒の場合、もろみの発酵・熟成が完了した段階でもろみに醸造アルコールを加えます。

仕込を3回に分けて行うのは、酒母中に形成させた酸やアルコール、酵母濃度が急激にうすめられるのを避け雑菌による汚染を防止するためや、発酵に必要な糖分濃度などを調整するためです。

また、製麹や発酵・熟成は温度や湿度、酸素、時間の管理が非常に微妙で難しいため、おいしい日本酒を造るために日々研究・改良されています。

製品化
熟成したもろみを圧搾機にかけて圧搾し、清酒と酒粕に分けます。この操作を上槽(じょうそう)といいます。次にこれをオリ引き(白濁している成分を沈降させ取り除く)し、さらにろ過を行います。この段階のものが新酒です。

次に新酒を火入(ひいれ)します。火入とは加熱することで、貯蔵中の変質を防ぐために60〜65℃に加熱し有害微生物の殺菌、酵素の失活などを行ないます。火入が終わったらこれを貯蔵します。貯蔵することにより新酒香が消え、味も丸くなります。

貯蔵が終わった清酒は、仕込タンク毎に若干味のばらつきがあるため、数本のタンクの酒を調合し品質を均一化します。この段階のものが原酒です。

このままではアルコール分が高いので、割水(加水)して調整します。さらに、再度火入し加温したまま充填し、日本酒(清酒)の出来上がりです。

※生タイプのお酒は、火入や貯蔵の方法が上記とは異なり、いろいろな方法が採られています。(その三 種類の秘密を参照)

協力 秋川酒造(株)

工程図

日本酒の工程図
その二 発酵の秘密(日本酒の醸造・発酵現象) DOWNUP

●酒母の中では次のようなことが起こっています。

伝統的な山廃もとでは、まず仕込水や麹からの硝酸還元菌(Pseudomonasなど)や産膜酵母が、仕込水に含まれている硝酸塩を還元して亜硝酸を生成します。次いで乳酸菌Leuconostoc mesenteroidesやLactobacillus sake が生育し乳酸を生成すると同時に、硝酸還元菌は徐々に死滅します。やがて乳酸菌も自ら生産した乳酸により低pHとなり死滅していきます。これらの微生物は低温で生育するため酒母を低温に保つ必要があります。
また、これら微生物の活動と同時に、麹の麹菌(かび:Aspergillus oryzae)により生産された酵素(アミラーゼ)にて、原料中のデンプンが分解されブドウ糖、麦芽糖となります。

低温下において、これら微生物によって作られた亜硝酸と乳酸(低pH化)、および麹菌の酵素で行われる糖化による濃糖化によって、耐酸性のない発酵に有害な野生酵母、その他の細菌の増殖が阻止、淘汰されます。

この状態になったところで純粋培養した酵母Saccharomyces cerevisiaeを添加し、清酒発酵のメインとなる酵母を増殖させ、酵母によって糖からアルコールを生産させていきます。

現在主流の速醸もとでは硝酸還元菌や乳酸菌に頼るのではなく、乳酸を直接添加して低pHとし、有害微生物を増殖させないようにして酵母を添加しています。この方法により気温が高くても醸造ができるようになり、比較的短時間で酒母が作られるようになります。

●もろみの中では次のようなことが起こっています。

日本酒の発酵の特徴といえば、なんといっても並行複発酵です。これは麹菌の酵素によるデンプンの糖化と、酵母による発酵が同時に進行する発酵形式です。他の酒類では糖化と発酵を別々に行うか、糖化を必要としない発酵形式であるのに対し、日本酒は糖化と発酵を同時に行う並行複発酵形式をとっています。この発酵法により、醸造酒では世界最高の20%以上のアルコール度を得ることが出来ます。

3段仕込によって発酵の準備が整ったもろみは、前記した並行複発酵(糖化と発酵が同時に行われる)が始まります。ただし、留仕込直後は酵母がまだ増殖期で発酵が弱いため、糖化作用が先行して行われます。

糖化は、麹菌(かび:Aspergillus oryzae)により生産された酵素(アミラーゼ)にて米のデンプンが分解され、ブドウ糖が生産されます。この糖は酵母がアルコールを作る原料となる他、酵母や麹中の微生物の成育に必要な栄養源および、お酒の甘味にもなります。
発酵は、酵母Saccharomyces cerevisiaeにより、ブドウ糖からアルコールと炭酸ガスが生産されます。これはSaccharomyces cerevisiaeがグルコース(ブドウ糖)を生体内の解糖過程(EMP経路)により、エタノール(アルコール)を生産することを得意としているからです。

この糖化と発酵は、酵母により消費された糖を酵素による糖化で補うように逐次行われ、最終的には20%ものアルコール濃度に達します。このアルコールを生産するには40%もの糖分が必要で、これをビールなどの単行複発酵(はじめに糖化を終わらせてから発酵を行う)方式で行おうとすれば、初期糖濃度が高すぎて酵母は発酵できないが、並行複発酵では可能です。このことから糖化と発酵の速度のバランスを上手くとる必要があり、発酵中のもろみの管理は非常に重要な作業です。

また、この他にも麹菌の微生物や酵母、及びそれらが生産する酵素により、米の成分からコハク酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸、各種高級アルコールとエステル類、微量のアミノ酸・ペプチド等が生産されており、いずれも清酒の味・香り、辛口・甘口を左右する重要な成分です。

原料成分の変化

原料成分の変化
その三 種類の秘密(日本酒の種類) UP

日本酒(清酒)は酒税法によって次のように位置づけられています。

イ)

米、米麹及び水を原料として発酵させてこしたもの。

ロ)

米、水及び清酒粕、米麹その他の政令で定める物品を原料とし、発酵させてこしたもの(イ)、ハ)に該当するものを除く)。
ただし、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む)の重量を超えないものに限る。

ハ)

清酒に清酒かすを加えてこしたもの。

清酒の製法品質表示基準

特定名称

使用原料

精米歩合

香味などの要件

吟醸酒

米、米こうじ、
醸造アルコール
60%以下

吟醸造り固有の香味、色沢が良好

大吟醸酒

米、米こうじ、
醸造アルコール
50%以下

吟醸造り固有の香味、色沢が特に良好

純米酒

米、米こうじ 70%以下

香味、色沢が良好

純米吟醸酒

米、米こうじ 60%以下

吟醸造り固有の香味、色沢が良好

純米大吟醸酒

米、米こうじ 50%以下

吟醸造り固有の香味、色沢が特に良好

特別純米酒

米、米こうじ 60%以下又は特別な製造方法(要説明表示)

香味、色沢が特に良好

本醸造酒

米、米こうじ、
醸造アルコール
70%以下

香味、色沢が良好

特別本醸造酒

米、米こうじ、
醸造アルコール
60%以下又は特別な製造方法(要説明表示)

香味、色沢が特に良好

特徴による種類

酒類

特徴

生酒

もろみを搾っただけの、生まれたままの日本酒です。酒蔵でしか味わえなかったフレッシュな美味しさを、そのまま詰めました。純米生、吟醸生などいろいろなタイプの生酒があります。

生貯蔵酒

搾り立ての日本酒をそのまま低温で貯蔵し、出荷時に一度だけ加熱(火入れ)しています。生の風味がそのまま残っていて、いつでもフレッシュでおいしいお酒です。

生詰酒 火入れ貯蔵した酒は、程良く熟して品質が安定します。熟した酒を加熱(火入れ)せず、ビン詰め出荷した日本酒です。

生一本

自分の工場で造った自醸酒で純米酒です。

原酒

一般の市販酒は搾った日本酒に水を加えてアルコール分を調整してありますが、この酒は水を加えていないのでアルコール分は高く、18〜20%もあり、風味は濃醇です。

おり酒

にごり酒に似ていますが、製法がちょっと違います。醪を目の細かい布で、ていねいにこしても、どうしても微細な麹と酵母などが混ざり、タンクの底に沈殿します。これを集めて、白く濁ったままにしておいたのがおり酒です。

高濃度酒

アルコールの度数を高くしてある酒。24〜36%位まであります。

長期貯蔵酒

ワインでは100年以上寝かせたものや、ウィスキーなどでは年代物がまろやかでこくがあります。これに対し、日本酒は1年で熟成します。しかし、日本酒の中でも吟醸酒のようなタイプの酒は、長期間貯蔵することでかえって味がまろやかになります。2年、3年、あるいは5年以上貯蔵された古酒がみられるようになりました。

たるざけ

樽に詰め樽の木の香りを生かした酒。樽の材料としては杉、なかでも吉野杉が最高とされています。

にごり酒

醪を目の粗い布でこしただけの白く濁っている白濁酒。出荷のとき加熱、殺菌していないものを活性酒ともいい、酵母や酵素が生きたままです。

ソフト酒

女性にも評判でアルコール分を押さえた軽い酒です。10〜14%前後で口当たりもソフトです。お酒がそれほど強くない方や、軽く酔いたいときにぴったりです。

発泡酒

炭酸ガスを吹き込んだお酒。シャンパンのような口当たりなので、夏向き。アルコール分は低く8%ぐらいです。

高酸味酒

白麹などを使用して造った日本酒で酸味が強い。

日本の酒(日本酒造組合中央会)より引用

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