熟成中のもろみの中では次のようなことが起こっています。
まず、麹の麹菌(かび:Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae など)により生産された酵素(プロテアーゼやアミラーゼ)にて、原料中のデンプンやタンパク質が分解されブドウ糖、麦芽糖、ペプチド、アミノ酸となります。
アミノ酸は醤油のうま味の中心となる成分で、ブドウ糖や麦芽糖は甘味を与えると同時に、酵母や乳酸菌の栄養源となります。しかしこれらの麹菌は、食塩濃度が高く酸素の少ないもろみ中では繁殖できず、約2〜3ヶ月で死滅し、その後は酵素だけが働いて分解が行われます。
しだいに耐塩性の乳酸菌 Pediococcus halophilus などが増殖し、乳酸が生成されpHが下がります。この乳酸により醤油の味に締まりが付きます。
そして耐塩性の酵母 Zygosaccharomyces rouxii が増殖し、糖分からアルコールや微量の有機酸、エステルを、アミノ酸から高級アルコールを生成します。これらは醤油の香味形成に重要な役割を果たします。
しだいに Zygosaccharomyces rouxii は消失し、代わりに Candida 属の耐塩性酵母(Candida
versatilis など)が生育してきます。この酵母は後熟酵母と呼ばれ、醤油香気の代表成分4-エチルグアヤコールや4-エチルフェノールなどを生成します。
このほかにも数種の細菌が共同作用して、熟成が進につれてアミノ酸、有機酸、アミン、エステル、アルコールなどが増え、香味は複雑なものになっていきます。また、アミノ酸と糖分(ペントース)が反応して色素が作られ、時間経過と共に着色していきます。
このように、もろみ中ではかび・酵母・細菌および酵素の絶妙な連係プレーが行われ、約6ヶ月〜1年ほどの時間をかけておいしい醤油が出来上がります。従来これら乳酸菌や酵母は自然発生的に生育していましたが、近年は品質を一定にするため選択培養して添加する場合もあります。また、製麹や発酵・熟成は温度や湿度、酸素、時間の管理が非常に微妙で難しいため、おいしい醤油を造るために日々研究・改良されています。
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